漫画『岡崎に捧ぐ』のラスト3話とあとがきが何度読んでも泣ける

2022/12/13


『岡崎に捧ぐ』という漫画の最終巻5巻のラスト3話とあとがき、これがいつ読んでも泣ける。

この漫画は、漫画家の山本さほさんのデビュー作。元々noteで公開されていて人気になり、本人はこれをきっかけに雑誌に続きを連載し漫画家になった(はず)。

内容は本人の小学生時代から始まる自叙伝。クラスの人気者でいたずらをしたり漫画を描いたりしていた作者と、ちょっと変わった友達岡崎さん、そしてクラスメイトや当時の出来事などの日常を面白おかしく漫画にしたもので、よく言われるが『ちびまる子ちゃん』のような内容だと思ってもらえるとわかりやすい。作者と同い年生まれの自分は、当時のたまごっちブームやかみつきばあちゃんの話などがドンピシャであり、懐かしい気持ちにもなる。

小学生からはじまった1話だが、巻が進むにつれて中学生編、高校生編、と成長した物語になる。ベースにあるのは日常の漫画化だが、男女混じって好き勝手楽しかった小学生の頃に対して、女の子のグループの中に無理して溶け込まないといけない息苦しさなどが混じり始める。

高校が終わると大学へ進学せずにフリーターとして色々な仕事をし、その中でできた友人や仕事上の理不尽な出来事などの話が中心となっていく。ここもやはり、基本は面白おかしくネタにしてはいるものの、大学に行けず、何も変わらない生活の繰り返し、このままで良いのか、自分はダメな人間だ、といった葛藤が見え隠れし、ほのぼのとしていた1巻に比べ4巻くらいになるとだいぶ重い雰囲気になってくる。


そんな中で最後の5巻、ラスト3話に2人の人物によって作者が覚醒する。

まずは74話「もう一人の幼馴染」。ここでは小学生の同級生でずっと付き合いのある”杉ちゃん”と作者が飲み屋で話をする。将来に希望を持たずに過ごしている作者に対して、小学校時代のクラスの人気者だった作者を知る杉ちゃんは「漫画を描いたらどうか」と勧めてくる。自分なんてどうせダメだと卑屈になる作者に対し、「山本さんにはがっかり」「大人になったら有名になると信じていた」「どんどんつまらない人間になっていく」「岡崎さんもがっかりしているだろう」と厳しい言葉を浴びせる。(これはここまで言える仲でもある、ということでもある)。その場で何も言い返せない作者だが、最後のページで別れ際に「ひとつだけ描きたいことがある。岡崎さんのこと・・!」と伝える。これが覚醒の始まりになる。この時点でちょっと目が潤んでくる。


75話「運命の日」。ここがクライマックスと言っても良い。登場人物は岡崎さん。小学校時代からの親友である岡崎さんは作者のことを非常に好んでおり、中学や高校は別になったが20代になっても友人関係は続いている。途中何度か喧嘩、というか漫画上は作者からの一方的な癇癪によって連絡を取らなくなる時期があるが、それでも岡崎さんは好意を持ち続けてくれ、全てを肯定してくれる。 そんな岡崎さんと電車にのっているときに、杉ちゃんとの会話のことを伝える。以下、その漫画のセリフを引用。

「突然さ、マンガを書けって言うんだよ。」 「おかしいよね、もうマンガなんてずっと描いてないのにさ。」 「でも…山本さんならできるって言うんだよ。」 「本当杉ちゃんて変だよね〜〜。人の心配ばっかしてさ〜余計なお世話〜〜」 「……」 「漫画家なんて…もうずっと前に、諦めた夢なのに…」

と言いかけた時、岡崎さんは被せ気味に真っ直ぐにこう言う。

「山本さん!大丈夫!山本さんなら絶対漫画家になれるよ!」

泣ける。そして75話の最後は岡崎さんと電車で別れた作者が夜中の駅の階段を降りながら、小学生時代のような表情で「描いてみるかぁ…!」と言って終わる。ここが覚醒の切り替わりのタイミングであり、ここは鳥肌が立つ瞬間。スターウォーズのレイが石浮かせたときの感覚。


76話(最終話)「岡崎に捧ぐ」。これは岡崎さんの結婚式の話題を中心とし、これまでの友人たちの後日談を交えた話になっており。74,75話のような覚醒のシーンは無い。ただ、最後にはこの「岡崎に捧ぐ」の第一話を描く作者がいてなんとも不思議な感覚になる。今まで読んできた『岡崎に捧ぐ』という漫画の中で、その『岡崎に捧ぐ』がつくられようとしているから。漫画の世界の話だったのが、現実の世界に繋がっていく感覚がある。


最後にあとがき。ここでは漫画を描いてnoteにアップし始めた後の話が書かれている。2人の親友に後押しされて自信が無いままアップし続けていたある日、読者の一人から「あなたは絶対に漫画家になれる」というメッセージをもらった話で、これももうひと泣かせするのでぜひ読んでください。


という感じで『岡崎に捧ぐ』についてをわーっと書きました。同年代の自分にとって、笑える漫画でもあり、懐かしさを感じる漫画でもあり、そして泣けて勇気をもらえる漫画でもあるので凄く好きです。


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